遺伝子組換えによる花の色の改変
勝元幸久(サントリーフラワーズ(株)・商品開発部)
≪要旨≫
花の色は、消費者が花を購入する際の重要な要素です。また花の業界では常に新しい形質が珍重されるため、新しい色の品種を作り出す努力が主に新しい野生種の遺伝子を交配で導入することにより営々と行われてきました。しかしながら、現在でも単一の種ですべての色の品種がある場合はむしろ稀です。たとえばペチュニア、シンビジウムなどは橙色の品種がありあせん。また、ゼラニウム、インパチエンスなどには鮮やかな黄色の品種がありません。その理由は種によって花色合成に関わっている遺伝子が限られているためです。
我々は、遺伝子組換えの手法を利用すればその種がもつ遺伝子に制約されることなく多彩な色を実現できるのではないかと考えました。また、遺伝子組換えの手法を用いると目的の形質だけを改変できることもこの手法の魅力でした。花色の成分のうち、黄色から青の広い色調を司るフラボノイドに着目しました。
研究を開始した1990年からフラボノイド合成に関わる重要な酵素(フラボノイド3’,5’-水酸化酵素、フラボノイド3’-水酸化酵素、フラボン合成酵素、フラボノール合成酵素、オーロン合成酵素、アントシアニンアシル基転移酵素、アントシアニン糖転移酵素など)の遺伝子の単離と花卉(カーネーション、バラ、トレニア、ペチュニア、ニーレンベルギアなど)の高効率形質転換系の確立に注力してきました。
カーネーションはフラボノイド3’,5’-水酸化酵素遺伝子を欠損しているので紫色のアントシアニジンが蓄積せず、紫色の品種がありません。カーネーションにペチュニアの本酵素遺伝子を発現させることにより、紫色のカーネーション「ムーンダスト」を開発し、1997年より販売を開始しました。ムーンダストは国内で販売されている唯一の遺伝子組換え植物です。続いて、その他にもトレニア、ペチュニア、ニーレンベルギアなどでも花色を改変した植物を取得しています。いくつかの例を挙げて、弊社での研究開発を紹介したいと思います。
≪抱負≫
花の色に関する構造遺伝子や制御遺伝子の多くはすでにクローニングされているため、花色の代謝工学のためのツールは揃ってきています。しかし、形質転換が可能な植物種は全体からみればまだわずかであり、導入遺伝子の安定発現や、標的遺伝子の安定抑制など残された課題もまだあります。
日々進歩する遺伝子操作技術でデザイン画のように好きな色の花を作り、多くの植物で花色をより多様で魅力的なものにするのが夢ですが、次の目標は青いカーネーション“ムーンダスト”で用いた手法を応用して、“青いバラ”を咲かせることです。バラはカーネーションやキクと並ぶ世界の三大切り花で、やはりきれいな紫から青色の品種がありません。青い花は私たちだけの願いではなく、交配育種を試み続けてきた人々の夢でもあります。ムーンダストの花言葉は「永遠の幸福」ですが、“青いバラ”も世界中の人々の幸せや平和を象徴するような花になることを願っています。
勝元 幸久 Yukihisa_Katsumoto@suntoryflowers.co.jp
サントリーフラワーズ株式会社 研究センター
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