分裂酵母の配偶子形成を観る
大阪市立大学大学院理学研究科 中村太郎
1,配偶子形成(胞子形成)は何が面白いか?
配偶子形成は生物が自分の遺伝情報を次世代に伝える主要な手段であり極めて重要な生命現象である。分裂酵母においては胞子形成が配偶子形成に相当し、減数分裂によって分配された姉妹染色体を配偶子膜が包みこむという過程は高等生物まで基本的に保存されている。将来胞子の細胞膜となる前胞子膜の形成は胞子形成の中でもっとも主要なプロセスであり、第2減数分裂とともに開始する。電子顕微鏡観察により、この時期にスピンドル極体 (SPB、高等生物の中心体に相当)の細胞質側に層状の構造が現れ (構造変換)、その構造を起点として膜形成が始まる。第2減数分裂の進行とともに膜は伸長していき、最終的に核を包みこむ。前胞子膜は二重膜であるが、その内腔に胞子壁の成分が蓄積し、胞子壁が形成されていく。前胞子膜の内膜は胞子の細胞膜となり、外膜は消失して、胞子が完成する(図1)。
前胞子膜形成は次の2点でユニークであり、興味深い。
①第2減数分裂と同調しておこるため、この2つのイベントを結びつける高度な時間的
空間的制御機構が存在する。
②通常の細胞分裂では細胞膜が既存の膜の伸長により形成されるのに対して、前胞子膜
は細胞質の中に新たに形成される。すなわち「細胞膜新生」が起こっている。
しかしながら、その分子機構についてはほとんど明らかになっていない。ここでは、これまで電子顕微鏡下でしか観察することができなかった前胞子膜形成を蛍光顕微鏡下で観察できる系の構築および観察結果、また、前胞子膜形成の分子機構を分子細胞生物学的なアプローチにより明らかにした結果について紹介する。
2,胞子形成をどのように観るか?
我々は胞子形成欠損変異株をスタートに、その原因遺伝子の取得、遺伝子破壊及び破壊株の詳細な解析、遺伝子産物の細胞内局在等を明らかにし、その全容の解明を目指している。この解析の過程で前胞子膜に局在するタンパク質Psy1を取得した(詳しくは後述)。このタンパク質と緑色蛍光タンパク質 (GFP)の融合タンパク質を細胞内で発現させ、生細胞で経時的に前胞子膜を観察する系を構築した。また、前胞子膜形成が減数分裂とどのようにリンクしているか詳細にモニターするためにPsy1とチューブリンをGFPのバリアントであるYFP、CFPでそれぞれ標識して同時に観察する系も構築した。こうして減数分裂の進行と関連づけて前胞子膜の形成を蛍光顕微鏡下でライブ観察した結果、前胞子膜は次のようなステップを経て形成されることが明らかになった。前胞子膜は第2減数分裂前期からSPBの細胞質側にドットとして現れ、その後第2減数分裂の間ほぼ同じ割合で伸長していった。第2減数分裂が終了したあともしばらく伸長を続け、その後形成された袋を閉じていく様子が観察された。この時、袋の形態はかなりゆがんでいる場合が多いが、その後、球形に整えられていった。同時に、減数分裂の各時期との時間的な関係が明らかになった。
3,胞子形成はどのような分子メカニズムで起こっているのか?
胞子形成関連遺伝子の取得と先に述べたストラテジーによる解析により、前胞子膜形成は以下のような分子メカニズムで起こっていることが明らかになった(図2)。
①SPBの構造変換:巨大なコイルドコイルタンパク質Spo15は生活環を通して、SPBに局在しているが、減数分裂に入るとSpo2, Spo13タンパク質が発現してSPBに局在した。これら遺伝子の欠損株ではいずれもSPBの構造変換が起こらず、前胞子膜形成も全く起こらないので、これらのタンパク質が前胞子膜形成の開始に関わっていることが明らかになった。
②前胞子膜形成の開始:この時期になるとそれまで細胞膜にいたシンタキシン(特異的な膜融合に関わるキータンパク質)様タンパク質Psy1がSPB付近に移行し前胞子膜形成が開始し、引き続いて膜小胞の融合に関与するものと考えられる。
③前胞子膜の伸長:SPB付近に移行したPsy1タンパク質へ膜小胞が運ばれて来て、膜伸長が起こる。このときに、別の前胞子膜局在タンパク質Spo3がPsy1とともに前胞子膜の伸長に関わる。
④前胞子膜への膜小胞の輸送:前胞子膜への膜小胞の輸送には栄養増殖で働くSecタンパク質ホモログSpo14 (Sec12ホモログ), Spo20(Sec14ホモログ)が働く。
中村 太郎 taronaka@sci.osaka-cu.ac.jp
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生物地球系専攻細胞生物学研究室
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