飲食業で働く際に、もっとも重要とされるのが接客ではないでしょうか。従業員の接客ひとつで、お客さまがまた来店してくれるのか、してくれないかをも左右すると言っても過言ではありません。けれども、理想的な接客とはどういうものなのか? 改めて問われると、教える側も教えられる側もなかなかピンと来ないものです。
「お客さまは神様です」
それはもしかして古い話かもしれないけれど、お客さまがあってのお店がある、というのは事実です。中にはお客さまを選ぶお店もありますが、それはよっぽどの高級店など少数派でしょう。
そのため、お客さまにまたリピートしていただくために「心地よい接客」のHOW TOをお店のスタッフ全員で共有することはとても有意義なことだと考えられます。
この記事では、理想的な接客のあり方について改めておさらいしてみたいと思います。
飲食業は「接客が命」
「芸能人は歯が命」とは知れたフレーズですが、飲食業の場合は接客が命です。もちろん味も重要ですが、飲食業の場合は味と言うよりも「お店」にお客さまがつくことの方が多いかもしれません。そのポイントとなるのが、接客です。これは、どんなに有名な飲食店でも個人店でも変わりはありません。
接客に満足できるお店であれば固定客も着くし、固定客が着けばお店の経営もスムースに回り良い循環となります。
それでなくてもネット社会の現代。口コミサイトなども多数存在し、ただの1客がお店をつぶすことだって可能です。「味」については改善の余地があるかもしれませんが、「接客」については従業員の意識を改革しない限り改善されることはありません。その結果、お店の存続が危うくなってしまう可能性もありえます。
確かに、「新しく出来たあそこのお店、美味しいけれど接客が最悪で」などと噂されたら行きたくなくなってしまいます。こうした事態を避けるためにも、あらかじめ接客マニュアルを作成し、従業員みんなで共有することは重要です。
逆に言えば、とても気持ちの良い接客であったなら少々のミスは許されるかもしれません。そのくらい飲食業にとって接客は大事なのです。
もしも飲食店で接客を担当するのなら、
- 笑顔での対応
- 気持ちよい挨拶
- 人に不快を与えない身だしなみ
- お店のコンセプトに合ったお客さまとのやりとり
- オーダーの絶妙なタイミング
を心がけるようにしましょう。
接客の基本中の基本、接客7大用語とは?
臨機応変な立ち回りが求められる飲食業の接客ですが、基本中の基本ワードは7つです。
「いらっしゃいませ」
お客さまが来店した際にはじめに発する言葉です。来店してくれた感謝の気持ちを伝えます。
「かしこまりました」
オーダーを受けた時、おしぼりを頼まれた時などに使います。何かしらの社会人経験がある場合は使い慣れているフレーズですが、そうでない場合はなかなか使い慣れないこともあるので積極的に意識して使用するようにしてください。
ただし、フレンドリーな積極が売りの個人飲食店などでは「OKです!」などでも構わないケースもあるので使い分けも重要です。
「申し訳ございません」
お客さまに対して何かしらの不手際を働いてしまった時に使用します。何かしらの不手際、とは、決定的なバカッターのことを指すのではなく、たとえばオーダーされた料理の提供が遅くなってしまった。オーダーミスなどが考えられます。
伝票の付け間違いなどもあり得るので、そんな時は頭を深くして謝罪しましょう。口コミサイトで悪評を晒す方もいるのは事実。「その場で」謝っておくことが後々に吉となります。
「お待たせいたしました」
お客さまからオーダーを頂いてから実際に食事や飲み物を提供するまでにはどうしても時間がかかってしまうものです。そのお詫びの気持ちを込めて、「お待たせいたしました」と伝えましょう。「お待たせして申し訳ありません」まで発することができたら、飲食業のプロになることでしょう。このフレーズはこの先、どんな業界で働くことになっても重宝するのでぜひ口癖にしてください。
「恐れ入ります」
お客さまに何かをお願いする時、お客さんから何かをしてもらった時に使用するフレーズです。分かりやすいのが、お会計時にテーブルを拭いてもらった時などでしょうか。また、お皿を重ねてくれて片付けやすくしてくれたり、「お釣りはいらないよ」と言われた時などにも使用します。後述する「ありがとうございます」にも通じるものがあります。
「ありがとうございました」
お客さまが帰る際やオーダーした際などに感謝の気持ちを込めて伝える言葉です。この言葉については、出し惜しみをしてはいけません。どんなに悪態をつくお客さまであっても、お金という対価がありそれで飲食業は成り立っています。ふんだんに使ってください。
「少々お待ちください」
お客さまをウェイティングやお会計、料理の提供で待たせてしまったりする時に使用する言葉です。この言葉があるとないとでは大きく違い、この一言でお客さまは「自分のことを考えてくれているのだな」という気持ちになり、心にも余裕が持てます。
とても忙しくてお通しの提供が遅くなってしまう場合などは、「少々お待ちください」とともに、お待たせした分「少しだけ」サービスすればさらに好感触です。サービスと言っても、例えば焼き鳥屋であればつくねひと串で問題ありません。気持ちの問題です。それでも、確実にリピーターになることでしょう。
早速実践! 基本の接客マナー
基本的な言葉を覚えたなら、次は現場での実践です。接客は言葉だけではないので、行動にも移しましょう。
お出迎え時の案内方法
予約が必要なくらいの繁盛店でなくても、来店して下さったお客さまのご案内は必要です。何名かお伺いした上で、お客さまのニーズに適した席にご案内しましょう。例えば、もし小さなお子さん連れの場合はなるべく端の席がベストです。
既に予約されている場合は、「●●様、お待ちしておりました。こちらの席にどうぞ」とスマートにご案内を。「予約席」のプレートがある場合はそれを活用させてください。
メニューの出し方
「本日のおすすめ」などは固定メニューに記載されていないことがほとんどです。お客さまは何を食べるかまだ決めてないこともあるので、事前に料理長などに相談して「本日推し」のメニューを聞いておきましょう。メニューを出す時に、「今日は●●がオススメですよ」と言えることがベストです。季節感を感じさせるメニューならさらに良いですね。
オーダーの取り方
意外と難しいのが、オーダーを取るタイミングです。早すぎても「まだ悩んでいるから待って」、遅すぎても「何をやっているのだ」と思われることも。基本は、メニューを見てから4~5分後。メニューから目を逸らし、お店の従業員を見る時がオーダーを取るタイミングです。アイコンタクトでオーダーを取ることができるようになれば接客のベテラン!
料理の出し方
実は料理を出す順番もあります。基本は、小さなお子さま連れ(ファミリー)なら、小さなお子さまのオーダーを先に通します。これは、お子さまは食べることに時間がかかるためです。
次に、明らかに立場が上の方。そうした方はお会計を持ってくれる可能性が高いので、なるべく早く料理やお酒を提供するようにしましょう。
お会計時は?
お会計時に関しては、「ありがとうございます。●●円です」と伝えるのみでOK。そこで「来月は●周年でお得なフェアを行います」などといった情報があるのならば伝えても良いでしょう。お客さんの多くは特別感を求めているものです。確実に親近感を持ってもらえるはず!
お見送り
忙しい時でなければ、お客さんをドアの外でお見送りして、改めて「今日はどうもありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えることが望ましいでしょう。接客も「ゆりかごから墓場まで」。お客さまも気持ちよく帰ることができます。
接客の基本をマスターしたら、次は応用編
お客さまが帰られた後も仕事は続いています。席に忘れ物がないかチェックし、食べ残しなどがあればそれを厨房に伝えて改善を提案しましょう。
もし忘れ物があった際は気付いた時点で追いかけることがベストですが、なかなかそうもいかないもの。スタッフと情報を共有し、問い合わせがあった際には誰でも答えられるようにしておいてください。交番や遺失物センターに届ける、という手段もありますが、お客さまが受け取る時の手続きがとても煩わしいのでオススメはしません。予約の際に電話番号を聞いたのなら、電話をかけてお伝えすることが確実です。
ただし、携帯電話の忘れ物の場合はそうはいきません。本人が忘れたと気付いた時点で「誰かからの番号から」電話がかかってくると思うので、丁寧に対応するようにしましょう。
職場に専用のマニュアルがあるのなら、それに従うのもポイント
接客にも慣れが必要です。そのために欠かせないのが「マニュアル」。身だしなみや経営理念、接客方法が明らかにされているマニュアルがあるなら、それ通りにすることがもっともトラブルを避けることができます。ただし、人が相手の仕事なので必ずしもマニュアル通りにいくとは限りません。そんな時は上司に相談・報告して新たなマニュアルをつくりあげていきましょう。
なお、飲食店によっては「出禁リスト」を作成しているケースもあります。こちらについても慣れるまでは出入り禁止のお客さまが名前だけでは分からないのは当然です。ゆっくりでもいいので確実に学んでいきましょう。
接客マナーをマスターできない場合はどうしたらいい?
どうしてもお店のマニュアルが頭に入らない。実践できない。そんな時は、まず優先順位を考えて実践することが得策です。一度にすべてを覚えることは不可能なので、できることから。最初は基本的な挨拶からでも構いません。
覚えるコツは、スタッフやお客さまを観察すること。どうしたらお客さまに喜んでもらえるのか? 自分がお客さまの立場に立った時のことを考えて行動してみましょう。もしも自分がお客さまとして他店に行くとしたら、何が嬉しいのか。そこはまず店員さんの笑顔ではないでしょうか? 自宅で鏡を見ながら口角を上げる練習などをしてみても良いかもしれません。
接客業は「おもてなし」の集大成です。
つまるところ、接客業はどれだけお客さまを舌も気持ちも満足させられるか、という非常に重要なポジションです。たとえオペレーションに少々のミスがあったとしても、誠意を込めて対応すればお客さまもそこまで気を悪くすることはありません。大げさかもしれませんが、「お店の守り神」とも言えるのが接客担当の方々です。接客に問題がある飲食店は、値段に関係なくいずれにせよお店を畳むことになります。
飲食店は、味にお客さまがつくのではなく接客するスタッフにお客さんがつく、ということもあります。ハートフルかつ臨機応変な接客で、お客さまを虜にさせましょう!